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研究紹介とか

そのfMRI研究、本当に信用できる?~fMRI研究のこれまでとこれから~

こんにちは。
こちらの記事はOpen and Reproducible Science Advent Calendar 2021の11日目です。


担当させていただくのはおたち(https://twitter.com/otachi8787?s=20)です。

簡単に自己紹介させていただくと、とある民間の研究所で神経科学や心理学の研究をしています。
身元が不透明すぎる(笑)かもしれませんが、fMRIを用いた神経科学的研究や大規模データを使ってあれやこれやしている人だと思ってください。

また、臨床心理士公認心理師です。

さて、早速本題に入ります。
皆様の中にも脳神経科学が示す様々な科学的知見を面白く、また自身の研究にもその知見を活用しやすいと感じる方も多いのではないでしょうか?

実際、今現在、心理学はもちろん、経済学や社会学など様々な分野の論文や発表でMRIなどヒト脳の研究を引用した論文を数々見ます。
やはり、生き物ベース、バイオロジカルなお話ベースだと説得力もあって強いのか、イントロダクションやディスカッションの中で引用されることもしばしば…

ただし、本当にそのfMRI研究は信用できるものでしょうか…?

これまでのアドベントカレンダーでも再現可能性問題についてはすでに紹介されているように、今、科学研究のあらゆる分野で再現可能性を考えたり、研究不正を防ぐためにオープンなデータにしようという流れが来ています。

 

fMRIなど神経科学研究もその例外ではなく、ここ10年くらいで一気にOpenNeuroなどのオープンサイエンス用のプラットフォームが広がってきたようです。

そんな中、

「伝統的なfMRI解析ソフトウェアでパラメトリック検定すると、偽陽性率が最大70%にもなりえる」

そんな衝撃的な論文が2016年に出ています。

詳しい説明については、私なんかよりもはるかに大御所がブログ
Journal Club on "Cluster Failure: Why fMRI Inferences for Spatial Extent Have Inflated False-Positive Rates - Cognitive Neuroscience Society)などで説明されているので割愛しますが、少なくとも2016年までに行われてきた研究でパラメトリックな手法を用いているものは、このような「偽陽性の罠」にかかっている可能性があります。
そのため、そこから得られた知見にも当然注意が必要である、ということは言えそうです。

もちろん、上記の論文が出たことで「2016年までのfMRI研究はすべて信用ならない!」など極端なことをお伝えしたいわけではないのですが、伝統的に使われてきている方法がいつでも正しいわけではない、ということはどの分野においても重要そうです。

また、脳神経科学の論文を他分野の人が読んだり、引用したりするとき、何に注意をすればいいかは中々わからないとは思うのですが、特に2015年以前の論文では

・統計的な手法の前提に問題がないか
・どういった手法で脳活動の推定をしているのか
(古典的な統計手法なのか、クラスタリングなどデータドリブンなやり方なのか)

などは最低限確認する方がよさそうに思います。

とはいっても、この分野に入って1,2年のぺーぺーな僕とは言え、
他分野の方が神経科学の論文を読むのは結構骨が折れます。。。。
中々難しいことだとは思いますので、そういった知見を提供する(だけの)
共著者でよければ、是非お声がけください(笑)

神経科学では他にも、二度漬けの問題なども大手雑誌で指摘されています。
最近の研究者やソフトウェアはこういった問題にすごく敏感になっていますし、過去のすべての研究がそういう風な無意識的なミスをしているわけではもちろんないのですが、気を付けておくに越したことはないね、という形ですね。

今回の記事は、昔の有名な論文を掘り返しただけなので、知っている人からしたら「2021年のアドベントカレンダーだぞ。もっと新しいことを教えてくれ」、というご指摘もあるかもしれません(おっしゃる通りです……)

今現在でも、Psychological Scienceという心理学の有名雑誌ではこんな論文や、それに対するコメントなどfMRI研究の再現性についての議論がまだまだ活発になされています。

そういった論文を読み込んで今回のアドベントカレンダーで紹介することも考えました。
ただ、色々な分野の方が読むのに「そんなニッチな議論をされても、、、」という方もいらっしゃるのではないかと想像したのと、「昔の論文を振り返って今後も気をつけようね、温故知新だ!」という自戒もこめて今回はここまでで留めさせていただければ幸いです。

色々な分野で色々便利な統計ソフトウェアが出ていますが、fMRIに限らず気を付けていきましょうね、という気持ちをお伝えし、締めさせていただきます。。。

よいお年を…