論文まとめ

研究紹介とか

重度なゲーム障害傾向を持つ大学生はCognitive controlを行う脳活動の低下が見られる (20, Sep 2021, Neuroimage:Clinical)

Neural substrates of deficient cognitive control in individuals with severe internet gaming disorder - ScienceDirect

 

Wang, Lingxiao, Guochun Yang, Ya Zheng, Zhenghan Li, Ping Wei, Qi Li, Kesong Hu, and Xun Liu. 2021. “Neural Substrates of Deficient Cognitive Control in Individuals with Severe Internet Gaming Disorder.” NeuroImage: Clinical 32 (January): 102828.

 

結論から言うとfMRIと抑制機能を測定する課題を通してインターネットゲーム障害傾向のある学生と健康な学生の脳機能を比較して、重度のインターネット依存傾向を持つ大学生だと認知や抑制の制御をする部位の活動が弱いよという研究

 

Motivation: インターネットゲーム障害(IGD)は、急速に世界的な健康問題になっている。

自己調節の前頭葉-皮質下モデルは、前頭葉の認知制御システムの障害と皮質下の過剰な報酬追求システムの両方が、依存症を含む健康問題の重要な要因であることを強調している。
本研究では、IGDの認知制御系の脳昨日に着目し、IGDの大学生において認知制御が変化しているかどうか、その背景にある神経相関を明らかにすることを目的としている。

Methods:。方法 IGDの大学生30名とマッチさせた健常対照者25名に、機能的磁気共鳴画像法(fMRI)でモニターしながら、認知制御を測定するStop signal taskを行わせた。

Insights:
・対照群と比較して、軽度のIGDではなく重度のIGDの大学生のみ、抑制制御と反応実行に関わる脳活動(具体的には、下前頭回、前帯状皮質、一次運動野)が弱かった。
・この結果は、IGDの人の認知制御障害が依存症の重症度と密接に関連していることを示唆する
・ IGD患者では皮質下報酬系が亢進しているというこれまでの知見と合わせると、今回の知見は、大学生のIGDという観点から前頭前野-皮質下モデルの自己調節機能を拡張し、IGDの有効な予防・治療に役立つ知見を提供するものである。

 

感想:
前頭葉と中脳が関わっているのは当たり前として、それらの関連性などについての言及は特になし。それらの相互作用が大事そう。
・先行研究と一致しない部分については、大学生と患者で特性が異なるため、というような書き方されているけどほんとかなぁ?
結局行動課題にしても脳機能測定にしてもそれぞれの妥当性を鑑みるのが大事そう。

 

 

 

若手研究者よ、大志を抱け (3 November 2021, Neuron)

https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0896627321007169
Navigating clues to success in academia
若手研究者が学問の道で成功するために、という神経科学の大家たちが書いたNeuroView。

当たり前ではあるものの、僕のような若手研究者にとっては非常に重要だなぁと感じることが多数記載されていました。

特に
・研究室や学科などの文化の把握(メンターはいるのか、自由にできるのか)
・社会的な貢献と研究のバランス(若手研究者もそんなに社会的貢献を軽視しないほうがよい)
・自分がその組織のダイバーシティに関してどう影響を与えるのかを考える
起業家精神と同じものが必要になってくる(NIHなどの機関では起業家スタートアップ講座などを研究者に提供している!)
といったことは面白く重要であると感じました。

でもまぁ結論として「自分にとって一番大事なことを常に考えておけよ」というメッセージでした…肝に銘じなきゃ…

うつ気分はBMIを用いて改善できる(04 Oct 2021, Nat Med)

https://www.nature.com/articles/s41591-021-01480-w
Closed-loop neuromodulation in an individual with treatment-resistant depression
うつ病患者が持つ、気分に関わる固有の領野よ脳活動を電極で常時モニターし、機械学習を用いて「うつパターン」が検出されたら電気刺激をすることで気分を急速かつ持続的に改善できたという報告。

N=1のケースレポートみたいなものですが、画期的なように見えます。

 

ただし色々と突っ込みどころはあって、たとえば
・HAM-D6のうつスコアがそんなに短期間でそこまで変動するのかなぁ(だとしたら再テスト信頼性やばいことになるぞ)
プラセボ効果の検討もないのにそんなに強気で大丈夫?
などなど…

 

ただいずれにしても発想そのものが素晴らしいのはもちろんのこと、機械学習技術x臨床のゲームチェンジャーにはなりえる論文かなと思います。

 

 

薬物依存の渇望の変化は、脳活動変動と関連している(09 February 2018, Addiction Bio)

Title:

Time‐dependent neuronal changes associated with craving in opioid dependence: an fMRI study


Author:

Anna Murphy,  Dan I. Lubman, Shane McKie, Prun S. Bijral, Lesley A. Peters, Qasim Faiz, Sophie E. Holmes, Ian M. Anderson, Bill Deakin, 10 and Rebecca Elliott


結論から言うとこの論文では

オピオイド依存の渇望は扁桃体と前帯状皮質(dACC)が渇望のオンオフにかかわっている可能性がある
・先行研究で指摘されていた内側前頭前野などは大きくかかわらなかった。

 

Method:

20分間のオピオイド関連の画像を18名の薬物依存患者と20名の健常者にMRI内で見せて、主観的な渇望や気分を聞いた。
それらに対し、時系列解析を行った。

Insight:

扁桃体は薬物依存における渇望と大きく関わり、その脳活動の変化と渇望の変化は相関していた。

・一方でdACCは高まった渇望を抑えるのに役立っている可能性がある。

Unknown:

・vmPFCも深くかかわると予測されていたが、結果上からは特に関わっているようには見えない
・しかし、被験者特性など様々なものが関わっているので、一概には判断不能
・また行動依存やアルコール依存など、薬物の影響がない依存群でも同様の傾向がみられるかは不明

 

感想:

精神症状の時系列変化はかなり報告されていますが、その変化などの脳部位が関わるかなどはまだまだ未開拓な部分なのでとても面白い視点かなと思いました。

 
 

そのfMRI研究、本当に信用できる?~fMRI研究のこれまでとこれから~

こんにちは。
こちらの記事はOpen and Reproducible Science Advent Calendar 2021の11日目です。


担当させていただくのはおたち(https://twitter.com/otachi8787?s=20)です。

簡単に自己紹介させていただくと、とある民間の研究所で神経科学や心理学の研究をしています。
身元が不透明すぎる(笑)かもしれませんが、fMRIを用いた神経科学的研究や大規模データを使ってあれやこれやしている人だと思ってください。

また、臨床心理士公認心理師です。

さて、早速本題に入ります。
皆様の中にも脳神経科学が示す様々な科学的知見を面白く、また自身の研究にもその知見を活用しやすいと感じる方も多いのではないでしょうか?

実際、今現在、心理学はもちろん、経済学や社会学など様々な分野の論文や発表でMRIなどヒト脳の研究を引用した論文を数々見ます。
やはり、生き物ベース、バイオロジカルなお話ベースだと説得力もあって強いのか、イントロダクションやディスカッションの中で引用されることもしばしば…

ただし、本当にそのfMRI研究は信用できるものでしょうか…?

これまでのアドベントカレンダーでも再現可能性問題についてはすでに紹介されているように、今、科学研究のあらゆる分野で再現可能性を考えたり、研究不正を防ぐためにオープンなデータにしようという流れが来ています。

 

fMRIなど神経科学研究もその例外ではなく、ここ10年くらいで一気にOpenNeuroなどのオープンサイエンス用のプラットフォームが広がってきたようです。

そんな中、

「伝統的なfMRI解析ソフトウェアでパラメトリック検定すると、偽陽性率が最大70%にもなりえる」

そんな衝撃的な論文が2016年に出ています。

詳しい説明については、私なんかよりもはるかに大御所がブログ
Journal Club on "Cluster Failure: Why fMRI Inferences for Spatial Extent Have Inflated False-Positive Rates - Cognitive Neuroscience Society)などで説明されているので割愛しますが、少なくとも2016年までに行われてきた研究でパラメトリックな手法を用いているものは、このような「偽陽性の罠」にかかっている可能性があります。
そのため、そこから得られた知見にも当然注意が必要である、ということは言えそうです。

もちろん、上記の論文が出たことで「2016年までのfMRI研究はすべて信用ならない!」など極端なことをお伝えしたいわけではないのですが、伝統的に使われてきている方法がいつでも正しいわけではない、ということはどの分野においても重要そうです。

また、脳神経科学の論文を他分野の人が読んだり、引用したりするとき、何に注意をすればいいかは中々わからないとは思うのですが、特に2015年以前の論文では

・統計的な手法の前提に問題がないか
・どういった手法で脳活動の推定をしているのか
(古典的な統計手法なのか、クラスタリングなどデータドリブンなやり方なのか)

などは最低限確認する方がよさそうに思います。

とはいっても、この分野に入って1,2年のぺーぺーな僕とは言え、
他分野の方が神経科学の論文を読むのは結構骨が折れます。。。。
中々難しいことだとは思いますので、そういった知見を提供する(だけの)
共著者でよければ、是非お声がけください(笑)

神経科学では他にも、二度漬けの問題なども大手雑誌で指摘されています。
最近の研究者やソフトウェアはこういった問題にすごく敏感になっていますし、過去のすべての研究がそういう風な無意識的なミスをしているわけではもちろんないのですが、気を付けておくに越したことはないね、という形ですね。

今回の記事は、昔の有名な論文を掘り返しただけなので、知っている人からしたら「2021年のアドベントカレンダーだぞ。もっと新しいことを教えてくれ」、というご指摘もあるかもしれません(おっしゃる通りです……)

今現在でも、Psychological Scienceという心理学の有名雑誌ではこんな論文や、それに対するコメントなどfMRI研究の再現性についての議論がまだまだ活発になされています。

そういった論文を読み込んで今回のアドベントカレンダーで紹介することも考えました。
ただ、色々な分野の方が読むのに「そんなニッチな議論をされても、、、」という方もいらっしゃるのではないかと想像したのと、「昔の論文を振り返って今後も気をつけようね、温故知新だ!」という自戒もこめて今回はここまでで留めさせていただければ幸いです。

色々な分野で色々便利な統計ソフトウェアが出ていますが、fMRIに限らず気を付けていきましょうね、という気持ちをお伝えし、締めさせていただきます。。。

よいお年を…

Neurobiology of novelty seeking

 

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人間の脳は、経験を積むことで学習し、将来の行動の動機付けとなるように適応します。しかし、学習以前のモチベーションを高めるものは何か。

未知のものへの魅力、つまり好奇心は、高次の知識を得るための必須条件である。

新しさを求める生得的な魅力は、複雑な学習を行うための進化上の前提条件であり、生物が適応的な行動レパートリーを獲得するための指針となると考えられている。

 

実際、マウスやヒトでは、目新しいものを探索することで学習率が向上することが知られている。

さらに、明確な報酬や生物学的に有益な属性をもたない新規刺激が正強化因子として機能することもあり、その強力な動機付け特性が強調されている。

 

新奇性を求める表現型の高さは、依存症や双極性障害など、いくつかの精神神経疾患の病前の危険因子であり、その関係はネズミのモデルでも再現されている。

 

Ahmadlouらは、マウスの新奇性探索を促進するために、覚醒状態と環境中の刺激に対する親近感を統合する内側浸潤帯(ZIm)のニューロン集団を同定している。

 

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【感想】

新規性を求めることで有益な属性を持たない新規刺激が誤学習されることがある。

これらはゲーム障害などの問題にも大きくつながりうる(つまりBoredな状態を避けるためにいろいろなゲームに手を出し嗜癖化する)と考えられるのではないか。

 

後程時間あればしっかり精読する。

 

Science  14 May 2021:
Vol. 372, Issue 6543, pp. 684-685
DOI: 10.1126/science.abi7270

Inhibitory controlの変動がアルコール消費を予測する

アブスト

背景

これまで、客観的に測定されたInhibitory controlと、「制限違反」(計画よりも多くのアルコールを飲むこと)を含むアルコール消費との関連を調べるのに、EMAの手法は適用されていない。これは、消費行動に対する抑制性制御の予測力は、その行動をコントロールしようとしている人の中で最も高いはずであり、したがって、そのために抑制性制御を働かせようとする可能性が高いという理論的な主張に基づいている。

実際、抑制性制御(および主観的自制心などの関連する構成要素)とアルコール摂取量との関連を調査した実験室での研究では、アルコール摂取量を評価する前に、参加者に意図的に飲酒を制限するよう動機付けを行っている。

この研究では,評価期間中に参加者の飲酒制限の動機付けを高めるために,評価期間の直前に参加者全員に簡単な介入を行った。評価期間中は,大酒飲みのグループを対象に,1日2回,2週間にわたり,抑制性制御(ストップシグナル課題)と,計画および実際のアルコール消費量を測定した。1日2回測定したのは,複数回測定することで信頼性が高まること(Shiffman et al.2008)と,1日の中での抑制性制御の変動を調べることができるからである。

 

方法
飲酒量を減らしたいと考えているヘビードリンカー(N=100)にスマートフォンを貸し出し、1日2回、午前10時から午後6時までの間にランダムな間隔で停止信号タスクを実施してもらった。

また、参加者は毎日、計画したアルコール消費量と実際のアルコール消費量、主観的な渇望感と気分を記録した。

筆者らは、抑制性制御の日内変動(停止信号反応時間)が、計画的な飲酒や渇望に加えて、飲酒を予測するという仮説を立てた。


結果
マルチレベルモデリングにより、1日のアルコール消費量は、計画消費量(β=0.816、95%CI 0.762-0.870)と渇望(β=0.022、95%CI 0.013-0.031)によって予測されたが、抑制性制御は、アルコール消費量の追加的な変動を予測しなかった。

しかし、二次解析では、計画的消費と渇望をコントロールした上で、一日の間の抑制性コントロールの低下の大きさが、その日のアルコール消費量の増加の有意な予測因子であることが示された(β=0.007、95%CI 0.004-0.011)。

 

結論
これらの知見は、抑制制御の短期的な変動がアルコール消費を予測することを示しており、抑制の一過性の変動が大量飲酒エピソードの危険因子である可能性を示唆している。

 

【まとめ】

  1. 先行研究と比べてどこがすごい?
    スマホを用いた経験サンプリングで測定し、日内変動も視野に入れている

  2. 技術や手法のキモはどこ?
    スマホを用いて行動実験を実施し日内変動との関連を調査している点

  3. どうやって有効だと検証した?
    マルチレベルモデリング解析を使って、飲酒量との説明関係を調査している。

  4. 議論はある?
    スマホでの調査なので、交絡要因は多数ありえる

  5. 次に読むべき論文は?
    De Wit H (2009) Impulsivity as a determinant and consequence of drug use: a review of underlying processes. Addict Biol 14:22–31かな